配偶者等からの暴力(ドメスティック・バイオレンス=「DV」)は重大な人権侵害です。京都府ではDVの防止及び被害者の保護並びに自立支援を総合的に推進するために基本計画を策定しました。
計画の策定にあたって府民の皆さんから多くのご意見をお寄せいただきました。計画では
●DV被害に気づく環境づくり
●暴力を許さない環境づくり
●総合的な相談・保護体制の充実
●自立のための継続的支援体制の確立及び関係機関の 連携強化
●被害者の状況に応じた支援体制の充実
の五つの柱で様々な施策を進めることとしています。
詳細についてはKYOのあけぼのホームページ(http://www.pref.kyoto.jp/josei/jorei/index.html)に掲載していますのでご覧ください。
12月に宇治市と舞鶴市で行われた基本計画府民意見交換会「DVを考える集い」では、多数の方から活発に質問や意見が出されました。その集いで行われた講演内容を紹介します。
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「家庭内暴力の特質
−DVを中心に−」
講師:中村 正さん
(立命館大学大学院教授、府DV基本計画検討委員会座長)
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最近いろいろなタイプの暴力が家庭内で起こっています。家庭内の暴力は古くからある問題ですが、ようやく法律ができて関心が持たれ始めた古くて新しい問題です。児童虐待や、直近では高齢者の虐待についても法律ができました。
夫婦間の暴力についても法律ができましたが、恋人間の暴力、デートDVも類似の暴力として最近問題になっています。このように、親しい者の間での暴力が日常的にあるわけですが、体系立っては防止も禁止も救済も取り組まれていなかった。しかしいろいろな形で目に余る暴力が事件として出てきたので、法律ができたというのが現状です。
配偶者間の暴力、これには事実婚や別れた後の暴力も含まれますが、共通しているのはほとんどが男性からの暴力ということです。しかも男として育ってくるプロセスで、必ずしも暴力が否定されていない。学校教育や幼稚園、家庭教育、あるいは子ども達が触れるメディア、テレビ番組の中にある攻撃性が少なからず影響を与えています。そうして身に付けてきたことが、今度は自分が子どもを育て、夫婦関係を作っていくときに、あるいは老いた親を介護していくときに出てしまいます。ですから長期的な対策、予防がとても大事だと思います。
家庭内、親しい者の間での暴力は、一旦被害者と加害者を分離するという措置をとります。DVは保護命令(退去、接近禁止命令)が地方裁判所から出されますし、児童虐待では児童相談所や家庭裁判所が対応します。分離した後、被害者は救済の仕組みに入っていきますが、加害者は残念ながら何もされていません。DVの場合、被害者に近寄るなという保護命令が出されるだけです。
被害者の救済について、こんなことがありました。逃げている妻が、自立のために福祉事務所へ生活保護の申請に行きました。生活保護は親族扶養の原則があり、DVで保護命令を出されてもまだ離婚ではないので、殴っている夫が妻の扶養義務者になります。そこで生活保護の担当者が夫に連絡をとろうとしたのです。これは明らかに窓口が間違っています。法律違反です。一つの例だけですが、法に則っていろいろなことを、ここでは生活保護制度にある親族扶養の原則を変えなくてはならない。今まで私達の作ってきた福祉の仕組みや、就労の援助、子どもが学校に行く権利の保障、いろいろなことが全部つながってきます。行政や家族のあり方、男女間の価値観、特に男性の女性に対する意識・態度、あるいは子どもに対する態度等を全部変えなくてはならない。これは壮大な作業ですが、一人一人が安心して暮らせる社会になるかどうかの大きな根幹となるものです。
基本計画の検討委員会では、被害者を招き、どんな被害に遭い、どんな援助が必要か直接話を聞きました。そして、自立に向けて、どのように自分の家族や子どもと人生を再構築していくのか、その際に行政がやるべきこと等を被害者の視点で考えながら計画を作ってきました。
まず被害者が相談できる窓口を作り、一人ひとりの被害者のストーリーに合わせて、継続的な援助をどう作っていくかを考えます。そこで危ない事態があれば警察も含めて緊急介入を行います。分離された後、一時的に生活をするシェルターが必要ですがとても数が少ないので、国土交通省の通達で公営住宅に優先入居ができるようになってきました。
法律が改正され、子どもも保護命令の対象となりましたが、子どもを連れて逃げている場合も子どもを学校に行かせなければなりません。しかし逃げた先での住所がないので、子どもを編入させる根拠となる名簿に名前が載らない。そこで学校側がDVを理解していないと、あなた誰ですかとなる。学校の先生も教育委員会も含めてこの問題を知らねばなりません。
DVや児童虐待や高齢者虐待等、親しい家族、自分が愛した人から被害を受けている場合、援助を求めることすら罪悪と感じるという心理的特質もあり、DVの複雑さ、多様さを踏まえながら議論してこの計画を作りました。
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「DV被害者のこころの
回復を支える現場から」
講師:井上 摩耶子さん
(ヴィメンズカウンセリング京都代表、府DV基本計画検討委員会委員)
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被害者化とは自分がDVの被害者だと自分で認識することです。DVの被害者は、自分が被害者で夫が加害者だとは思いたくないので、「夫は愛情から殴っている」「自分が至らないから」と自分の身の上に起こっている事態を否認したいという心理が働きます。ですからDVにおいては、外側からの介入がないと、二者関係の中での解決は絶対に無理です。外側にSOSを出すためには、自分がDVの被害者なのだとはっきり認めなければなりません。そして相談の初期段階で、暴力を事実として記録するだけでなく、事実に対して自分はどんな感情を持ったのかをきちんと見ることが大事です。それも一人ではできません。だれかに語り、相手に確認されたときに、はっきりと自分の考えていることや感情が確認できるのです。難しいと思いますが、ゆっくり話を聞いて、自分自身でDVの被害者だと認識できるまでつきあってほしいのです。
そこで、次はどうするのかという自己決定の段階です。逃げるというならいろいろな情報提供ができますし、ちょっと考えるというなら、逃げるときの用意や、電話をかけるところなど情報提供をして、また相談に来てもらえばいいのです。きちんと被害者化をして自己決定していないと、一旦逃げても、1、2年で夫の所に戻ってしまう人がけっこういます。逃げたあとの住居や食料など、社会的なサポートも必要ですが、心できちんと納得しないと行動はぐらつきます。カウンセリングはまだ日本の社会にそれほど定着していませんが、まずゆっくり自分の気持ちを整理すること、それを助けてくれる人が大事です。
DVが心身に与える影響も重要です。DVのために入所していた施設の職員から「もう治っただろう。早く出て働いたら」と言われる、こういうのを二次被害と言って、再び支援者の人に傷つけられるわけです。しかし、DVの心の傷はそんなに簡単に治るものではないのです。
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)、日本語では「心的外傷後ストレス障害」といいますが、大きな事故に遭ったときだけでなく、強姦やDVも精神医学的にはPTSDの症状を示すと言われています。そしてDVは長期に反復すると、どんどんPTSDが悪化し、複雑化していきます。複雑性PTSDという概念があり、それはもっと人格の深い部分での障害で、対人関係が根こそぎ失われます。鬱状態になり、死にたくなる、あるいは自傷行為、怒りの感情をおさえられないなどの症状があり、ときにはカウンセラーにも被害者の怒りは向かいます。これは彼女がおかしいのではなく、DV被害者のPTSD症状なのです。
私達は、「自分はこういう人間だ」という自己イメージをもっていますが、毎日毎日ののしられていると、「私がおかしいのか」と自分で自分が疑わしくなります。これはアイデンティティ危機といい、自分がわからなくなって鬱状態になり、自己イメージが損なわれていくのです。夫に殴られ怒鳴られておとしめられ続け、夫の要求、感情を先回りして読んで動いていたら自分がなくなってしまい、ついには「私は夫です」と言った人がいました。
また、夫に殴り殺される前にと、DVの被害者が夫を殺してしまったケースがありました。DVの複雑性PTSD症状には加害者への復讐の念がすごく高まることがあり、そのような心理状態の中で対人関係を自ら閉ざしてしまいます。ひきこもり、人も社会も信じられない状態になる、そうなるともう身を縮めて暴力が過ぎるのを待つだけで、逃げるという能動的な力がわいてこないのです。
また「心理的監禁状態」という考え方があって、加害者は妻を人質状態、マインドコントロール状態においています。「逃げたりすると子どもや実家の親がどうなるか分かってるな」と脅されると、逃げるよりは加害者にくっついて、それ以上の暴力が起こるのを防ごうとします。このマインドコントロールを自分だけの力でほどくのは本当に無理ですから、なかなか逃げられず、そこにとどまっている期間が長くなるのです。だから簡単に「いやなら逃げろ」と言う人がいますが、そんなことは言ってほしくありません。
DV被害者の心理はまだまだわかってもらえていませんし、複雑性PTSDは回復に3年4年ととても時間がかかるので、長い目で見た心理的回復に対してのサポートをお願いしたいと思います。
DVに関する主な相談窓口
| 相談機関 |
電話番号 |
開設日・時間 |
京都府配偶者暴力
相談支援センター |
075-441-7590 |
毎日
9:00〜20:00 |
DVサポートライン
(京都府女性総合センター) |
075-692-3228 |
10:00〜17:00
祝日10:30〜16:30
(水・日曜日除く) |
京都府
警察総合相談室
(京都府警察本部) |
075-414-0110 |
9:00〜17:45
(土日、祝日除く) |
府内市町村にも、女性のための相談機関が設けられているところがあります。詳細についてはKYOのあけぼのホームページ
(http://www.pref.kyoto.jp/josei/dv/soudan.html)
をご覧ください。

女性に対する暴力根絶のためのシンボルマーク |
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